ニュースの概要
米国のColumbia Law Schoolは、法学教育にAIを組み込む新しい取り組み「AI @ CLS」を発表した。法とAIを扱う上級科目を新設し、この分野の教員や研究も増やす。さらに、法律専門家向けAIのHarveyとLegoraを学生が使えるようにする。調べもの、文書づくり、定型作業の自動化といった場面で、在学中から実務に近い道具に触れさせる狙いだ。大手の法律事務所なども関わる形で進められる。AIは法律の世界では試験的な存在を脱し、教室の標準装備になりつつある。
引用元: Columbia Law SchoolがHarveyとLegoraを学生向けに導入(Columbia Spectator)
分析・見解
教科書より先に道具を渡す、大学側の判断
これまでの法科大学院は、判例の読み方や論理の組み立て方を教える場だった。道具の使い方は就職後に職場で覚えるものとされてきた。今回のColumbiaの動きは、その順番を入れ替えるものだ。HarveyとLegoraは、法律事務所や企業法務部がすでに導入を進めている製品である。つまり学生は、卒業後に使う道具を在学中から触ることになる。
実際、米国の大手事務所ではHarveyの導入が広がり、若手弁護士の初動作業が変わり始めている。大学が後追いで教えるのではなく、先に渡す側に回った点が重要である。
「使える」だけでは足りず、疑う訓練が要る
法律AIには、もっともらしい誤りを出す危険がある。2023年には、米国の弁護士がAIの作った存在しない判例を裁判所に提出し、制裁を受けた事件があった。便利さと危うさは同じ箱に入っている。
だから新設される上級科目の中身が肝心になる。操作を覚えるだけなら数時間で済む。難しいのは、出力のどこを疑い、どの原典で裏を取るかという判断だ。法とAIを学問として扱う科目と、教員・研究の拡充がセットになっているのは、この判断力を鍛える土台づくりとして筋が通っている。
二つの製品を並べて渡すことの意味
注目したいのは、一社に絞らず二つの製品を提供する点だ。Harveyは大手事務所を中心に先行し、Legoraは欧州発で、契約書の確認や共同作業に強みを持つとされる。学生が両方を比べれば、特定の製品への依存ではなく、道具を選ぶ目が育つ。
一つの製品しか知らない人は、その製品の癖を「法律の常識」と取り違えやすい。複数を比べた経験は、将来の導入判断で効いてくる。これは大学ならではの価値であり、企業が単独では作りにくい学びの環境である。
若手の仕事が減る時代に、育成の形はどう変わるか
長く、若手弁護士は資料の下調べや契約書の初読みで力をつけてきた。その作業をAIが肩代わりすれば、下積みで学ぶ機会は減る。大学が先に使い方と検証の作法を教えるのは、この空白を埋める試みとも読める。
今後は、法科大学院が実務の入口を前倒しし、事務所は採用後の研修を判断力の訓練に寄せていく流れが強まるだろう。日本でも、法学部や法科大学院が同様の科目を持てるかが問われ始める。
ビジネスへの影響
採用基準が「AIを使い、検証できる人」へ動く
米国で卒業生が当たり前にAIを使える状態になれば、採用面接で問われる点も変わる。単に使えるかではなく、出力の誤りを見抜き、根拠を説明できるかが差になる。日本の企業法務や士業の事務所も、新人に求める力を見直す時期に来ている。
導入前に整えたい三つの足元
まず、扱う情報の範囲を決めることだ。顧客の秘密情報を外部のAIに入れてよいかを、あらかじめ線引きしておく。次に、出力の確認手順を決める。誰が、どの原典で裏を取るかを一枚の紙にしておくだけでも、事故は大きく減る。最後に、小さな業務から試すことだ。契約書の一次確認や条文の調べものなど、結果を人が必ず見る作業から始めるとよい。
この三つがないまま高価な製品を入れても、現場は使いこなせない。製品選びより先に、運用の約束事を整えるのが近道である。
研修と外注の見直しが先に効いてくる
AIで下調べの時間が縮むと、外部の弁護士に頼む作業の内容や費用の考え方も変わる。社内で済ませられる範囲が広がる一方、判断の責任は社内に残る。社内で検証できる人を育てることが、これからの法務部の競争力になる。まずは担当者数名に実際の製品を触らせ、誤りの出方を共有する場を月に一度つくることを勧める。
